春、待ちます 佐藤 さと ー夢のない眠り それが死です。−〔福永武彦〕 擦り切れた ビートルズのレコードを 僕はひとりで聴いている。 イエスタディ。 悲しすぎる。 僕の昨日はもう 確かに過去という カプセルに蔽われている. 春子。 僕は 遠くへ去っていってしまった 春子を今でも 待っている. 今では 僕の思い出のなかにしか いない春子よ。 僕は おまえとの 思い出だけが 生きている 証だ。 八事の長い坂道を ふたりで 歩いたこと。 興正寺の片隅で 何か悪いこと しているかのように 隠れて 綿菓子を頬張ったこと。 雨の日 蛇の目傘をさし はしゃいで 行くあてもなく 歩いたこと。 ふとした はずみで 春子の華奢な肩 抱いた時 ひとりで 生きてはいけない 自分の弱さを 知りました。 「泣くなよ。春ちゃん。 僕は 悲しみをこらえて 健気に唄う 春ちゃんの姿が 好きなんです。」 たんぽぽの 白い綿帽子は 僕を密かに 追憶の ノスタルジアへ運ぶ。 不安なのは 僕の片思いが 永遠に続くのかも 知れないということ。 それでも 僕は 生きていこう 春、待ちます。 ![]() 〔二十歳〕 |
![]() 次頁へ |